新学期、席替えしたら二階堂の隣だった。 自分の運を褒め称えた。
移動したら二階堂がよろしく!なんて笑顔をくれた。 やっぱり自分の運を褒め称えた
でもよく見たら二階堂の反対隣がクラスのマドンナだった。 神様なんて絶対いない!

あー 私ってついてない…。
(人間の幸、不幸とはいとも容易く変化するものである。)



















新しい席で他の人が色々盛り上がっている中私は盛り下がる一方。
隣の席の二階堂はマドンナとお喋りに夢中だし、仲良しの千ちゃんは遥か彼方の席で玉ちゃんと盛り上がったりしていて非常に孤独。
周りを見ても仲の良い子も居ないし二階堂と楽しいお隣さん生活が 始まるんだとそればかりに浮かれていた自分を呪った。
無駄に余ってしまったロングホームルームの時間を如何に過ごすかと言う考えが今の私の友達であって、 それすら孤独なこの状況で会話を繋げてくれようとしない。




「(二階堂の薄情者!!)」



結局お前も顔か、顔なのか、なんだかんだ言いつつ!

仮にも友達というポジションについてる私を無視してマドンナなのか二階堂よ…。
そりゃあ、けして良くはないルックスだけどさあ、ねえそこは友達のよしみで少し位振り向いてくれたって良いでしょうよ。

仕方がないので一時間目の英語の予習でもしようとノートを開いてみた。
そしたらこの間二階堂に見せて貰った単語が視界に入って余計落ち込んだ。(この世には神も仏もいないのか!)









「千ちゃーん!!」


チャイムが鳴り響くのと同時に即座に立ち上がって、心の拠り所である千ちゃんに駆け寄る。
ああ、やっぱり遠い… (でも笑顔に癒されるから許す)
私の状況も知らない千ちゃんは、二階堂の隣良かったね!なんて笑うから、背中に軽くパンチしてやった。


「ちょっとちゃん痛いよー!暴力反対」
「千ちゃんのバカ! 私1人で寂しかったんだから…!」
「え? 隣、二階堂でしょ?」
「それはあの現実を見てから言って欲しいね…」


出来る事なら視線も向けたくない後ろの惨状を指差せば、途端に苦笑いを浮べる千ちゃん。
そうだよね、そりゃそうだよねその反応が自然だよね。
せっかく好きな人の隣になったのに、その反対側がマドンナとかもう笑うしかないよね!


「なんの罰ゲームだこれは…」
「だ、大丈夫だって!美人は3日で飽きるって言うし!」
「…千ちゃんそれフォローになってない。」








悔しいからもう今日からは千ちゃんと2人だけでご飯食べようって事になって、(私の独断だが)
相変わらずマドンナとの会話に夢中な二階堂を放って置いてこっそり教室を出た。
中庭までの渡り廊下を歩いてる途中で、千ちゃんが唸る声を上げたので見れば渋い表情。



「どうしたの?」
「…二階堂に怒られる」
「なんで。いいじゃん今頃あいつはマドンナと優雅な昼食をお取りになっているだろうよ。」
「そりゃちゃんはいいかもしれないけどさー」





だって、と千ちゃんが何かを言いかけた所で私達の頭上から あー!!って大きな声。
吃驚して見上げたら、眉を顰めた二階堂が教室から見下ろしていてビックリした。
そしたらその声に千ちゃんがうわ、と微妙な声を上げて困った顔になった



「ちょっと!! なんでと千賀がそんなとこにいんの!」

「今から2人でご飯食べるの!」

「なんで俺おいてくの!?」

「世の中所詮は顔だから! 二階堂のアホー!!」




遠い距離でお互い叫ぶようにそう言い合えば、はあ?と怪訝な顔をする二階堂。
その隙に千ちゃんの手を引いて教室から見えなくなる隣の校舎に駆け込んだ。
外では相変わらず私と千ちゃんの名前を呼ぶ二階堂の声が響いていてちょっと笑える





「ねー、ちゃん戻ろうよー…。ほんと二階堂に怒られるよぉ」
「や だ。 勝手にマドンナとでもなんでも仲良くしてりゃいいんだあんな奴」
「だから怒られるのはちゃんじゃなくて僕なんだってば…!」


ぶつくさ呟く千ちゃんの手を引いたままで校舎を徘徊して隠れられそうな所を探す。
そしたら3階の空き教室のドアがタイミングよく開いていて、お弁当を抱えて転がり込んだ。
流石にもう二階堂の声は聞こえなくなっていて、ホッとするやら寂しいやら複雑な心境になってしまう



あーあ!もうなんでこんなにムカツクのにこんなに二階堂が好きなのか!



「さ、落ち着いた所でお弁当食べよっか」
「あとでなんて二階堂に言い訳しよう…」
「もー二階堂の事は忘れようよ、美味しいご飯が不味くなっちゃう」




いただきまーすと手を併せた瞬間、バターン!!と大きな音を立てて教室の扉が開いた。
千ちゃんと2人で悲鳴を上げながら振り返ればお弁当を片手に持った(…持ってきたのか)二階堂が居た。
なんだお前、マドンナとお昼じゃなかったのか…と息をついたのも束の間、 バタバタ騒がしい足音で近付いて来て薄情者!と二階堂が怒鳴った。



「え、ちょ、ちょっとなにそんなマジギレしてるの二階堂、落ち着いて…」
「ほらぁ〜、だから怒られるって言ったのに…!!」
「千賀、なんで裏切んだよ!」



いまいち状況が掴めない私は、何時にない剣幕で千ちゃんを睨む二階堂を無意識に宥めてしまって、
そして何故だかそれすら二階堂の逆鱗の触れたようで、只でさえ釣り目なその瞳をキッと釣って私を見た
(おかしい、寧ろ被害者な私がなんで睨まれなきゃいけないの!)
オロオロする千ちゃんがごめんってば、と謝るけどまだまだ怒りが収まりそうにない二階堂さん。




「俺おいてくとか、も酷い!なんでそんなことすんの?!」

「だってーマドンナさんと楽しそうだったからー、邪魔しちゃ悪いと思ってー」

「は?マドンナ?田中さんの事?」

「マドンナってたら田中さんでしょ。二階堂は綺麗なお姉さんがタイプなんだもんねー、ストライクゾーンど真ん中だよね」

「なんだよさっきからマドンナマドンナって」

「べっつにー? 世の中所詮顔だなあと思いまして」

「ねー、なんでそんな機嫌悪ぃの。」

「別に機嫌悪くないです。ねー千ちゃん!」

「(なんで僕に振るの…)」

「千賀はひっこんでて!!」

「(何も言ってないのに…)」

「大体隣の席の人と仲良くして何が悪いわけ。」

「別に悪いとかそんな事言ってないけどさ」

「じゃーなんで!」

「二階堂が好きだからだよ!」










………。






シーンと漫画みたいに空気が凍るのが分かった。

言った私も言われた二階堂も間に挟まれた千ちゃんも







「…ちょっ、タンマ、 今のなかった事にして…!」



「……」





自分が何を口走ったか判った瞬間そう言って見たけどやっぱり無駄で、 あーあな顔してる千ちゃんが見えて泣きそうになった。
逃げ出してやろうかと思ったら二階堂がモゴモゴ喋りだしたからとりあえず思いとどまる。




「えーっと…」

「(殺すなら早くとどめを刺してくれ!)」




返事は判ってるし二階堂の口からハッキリそれだけ聞いたら教室戻るから、って呟いたら二階堂がまた眉間に皺を寄せた。





「 ……俺だってが好きだから、千賀と2人きりでご飯とかやだ。おいてくなよ」





「…あーもう!! なんなのもう、好きだバカ!」















いちいち最強に可愛い二階堂
そしてそれに勝つ術を持たない私は素直に降参を認めるしか手立てがないのである。




(2007.05.08 Alice)