「ねえって好きな人できたでしょ」 お昼休み、仲の良い子で輪になってお弁当を広げていた時、最近彼氏が出来たばかりの子が興味津々にそう目を輝かせた。 私以外のメンバーもちゃっかり皆恋人持ちで、唯一独り身の私が気になるのか、その声に他の子も身を乗り出してきて 「えー…なんでそんなこと」 「絶対今好きな人いるよね?」 「うっそホントに?私その話知らない!」 「だって最近のってなんかあからさまに恋する女の子〜だもん!」 中々言い出せずに皆の視線から逃げるように目を反らせば、 ふと視界に入る愛しの彼の楽しそうな横顔。 この恋が私の初恋で最後の恋だと思えるくらい好きになった笑顔 あの笑顔に影響されて、自分が魅力的になってるんだって思うと嬉しかった。 届かぬあなたは まるで神様でした 中々口を割らない私に、痺れを切らした友達はきっかけ位教えてよなんて意地悪に笑う。 きっかけも何も、いつもにこにこしてる笑顔に一目惚れしたという安堵な理由、と苦笑いすれば意外!と皆が口を揃えた。 「って中身重視で考えるタイプっぽいのに」 「でも きっかけはそうだけど、本格的に好きになったのはちゃんと中身を知ってからだよ。」 「何、その誇らしげな顔は。さてはベタ惚れですなー?」 その言葉に頬が高潮するのが判った。 皆の会話に終始にこにこしてる楽しそうな顔も、とんちんかんな答えもたま言うけど授業にも懸命な姿も、 委員会だって一度もサボらずに仕事をしてくれる所も。 ときどきついていけないマニアックな会話を始めちゃうところも、空気読めなかったりするところも 私の名前を嬉しそうに満面の笑みで呼んでくれる所も大好きで仕方なかった。 そんな私を見て友人は囃し立てるような目をして、誰なのか吐いちゃえ!と笑った。 その空気が何だか逃げられない様な気がして、小さな声で彼の名前を呟けば、途端に目をまん丸に開く友達。 「は? 宮田!?」 「ちょっ !」 その声に反応した宮田くんが玉森くん達の輪の中から立ち上がってなにー?!と大きな声を上げる。 それに慌てて私が何でもないよ、と否定すればあんまり不思議そうな顔をする宮田くん。 そのきっかけを作った正面に座る友達をキッと睨めば、口では謝りながらその顔は半笑い (勘弁してよ…!) きっと反応してピンクに染まりかけたであろう頬を隠しつつ、半分立ち上がった身体をまた椅子に任せて息を吐く。 私の反応を見て半信半疑だった他の子も、口々にあれがいいの?だのもっと上狙いなよ、だの呟いた。 「いいの、宮田くんがいいの。宮田くんじゃなきゃ嫌なの」 「俺がなにー?」 友達の声を格好良くばっさり切り捨てた瞬間、 ついさっき遠くで聞いた心地よい声。 ま さ か と思って恐る恐る振り返れば、私の椅子に隠れるようにしてしゃがみ込む 宮田くんとバチリと目が合った(おまけにニコリと笑われた) 「みみみみみみみみみやたくん…!!」 「俺がどうしたの? ちゃん!」 目の前には机があってそれ以上前に進むことも出来ないし、自分の椅子の後ろにはピタリと宮田くんが座り込んでいて、 どうにもならないこの距離感に激しく動揺しながら目を白黒させるけど、相変わらず目の前の宮田くんはにこにこ笑っている。 (だから その 笑顔に弱いんですってば…!) 呼吸をするのも躊躇われるほどのその距離に、思わず染まりそうになる頬。 まさかそんな在り来たりなバレ方ってないだろうよ!とSOSを出してみるけど友達は知らん顔(人事だと思って…!) ねえ?と、もう一度私に河合君が問いかけた所で、向こうの方で玉森くんが宮田くんの名前を呼んだ。 「今行くー! まあいっか。今日委員会だし、あとで聞かせてね」 そして宮田くんはその言葉だけを残して、足早に自分の椅子へ戻っていった。 息が詰まるほどの緊張ってこういうことだ、と其処でようやく呼吸を整えれば さっきまで無関心な顔を装っていた皆が一斉に私をみてニヤニヤ笑う。 「これはもう言うしかないよ。」 「"私、宮田くんが好きなの。宮田くんじゃなきゃ嫌なの〜"って」 「いいいい、言う訳ないでしょ!! そんな度胸ないよ…」 俯いた瞬間に垂れた前髪も私の気持ちと同じ様に項垂れていて、なんだか哀しくなった。 只管困っている私を見て友達は口々に頑張ってーなんて言いながら自分の席へ戻っていく。 5限目の予鈴が鳴るのと同時に私も自分の席へ戻れば、その途中に立っていた宮田くんとまた目が合った。 にっこり笑って私の横をすり抜ける宮田くんに上手に笑い返せない自分が憎くて 彼の笑顔が私に向く時、誰に向けるより一番に輝いてくれる日が来ればいいと思った。 それは今日や明日なんて近い将来じゃなくてもいい、いつかそんな日が来てくれたら 今彼の笑顔を失うのが怖い私は、きっと今日の放課後彼に嘘をつくんだろうけど、許してくれるよね。 神様 (2007.05.05 Alice) |