千ちゃんに次の授業のノートを写させて貰っていると、二階堂が便乗するように 自分のノートを持って寄って来たのでちょっとラッキー!なんて思ってしまった。 予習が出来ないとかなんとか言ってる千ちゃんには心底申し訳ないと勿論思いつつも…。






「あ、千ちゃんここの漢字間違ってる。」
「え?何処何処?」

綺麗な字で書かれた文字の中に妙な文章。 何かと思えば漢字の書き取り間違いだった
もしかしたら先生が間違ってたのかもしれないけど、あの先生てきとうだし…
そう思いながらも、ほらここ間違ってるよーなんて二階堂からノートを奪い取って渡せば困った顔をする千ちゃん。


「ちょっと俺まだ終わってないんだけど!」

「あ、ホント間違ってた」
「こっちの字だよね?」
「うん、そうそう。」


そうやって自分のノートを完璧にした所で筆記用具をしまった。
ちゃんと自分でやらなきゃ意味ないんだよーなんて口をヘの字にする千ちゃんを軽くあしらって お礼を言えば千ちゃんは途端に笑顔になった。
そういうところ可愛いよねーなんて言えば今度はまた困ったような照れた顔をするので、 それに頭を撫でたらもう!なんて言って怒って前の席に座った。


「ちょっとそんないちゃつかないでくれますか!」
「それより二階堂早く写さないと休憩、終わっちゃうよ。」
ちゃんは昨日休んでたからまだあれだけど、二階堂授業中漫画読んでるから自業自得だよ。」


そういう千ちゃんにそれもそうだねーなんて納得して見せればまた、ちょっと!なんて言って二階堂が怒る。


「あ、二階堂 字間違えてる」

「ホントだ。 あ、ここも そんなに急がなくても」

「あーもうっさいな! いいんだよ読めれば!」




そう騒いでいる内にチャイムが教室に鳴り響いて、慌てて自分の席に二階堂は戻っていった。
そしたら授業中、その様子に目をつけていたらしい先生に見事当てられ、二階堂は写し終えてない答えにしどろもどろして困ってた。 そんな姿も可愛いな、なんてずっと背中に目線を向けていたら 何時ものように引き出しから取り出す漫画に目が止まる。 本人の話によると、最近少女マンガにはまっているらしく隣の席の子から借りた漫画だとか

畜生、正直妬けるじゃないか。

そんな物より、リアルに少女マンガのような感情を抱いている私を見てたほうがよっぽど楽しいと思われますよ二階堂さん。
いっそハンカチでも噛んでやろうかと思ったけど流石に漫画チックすぎるかと冷静に考えてやめた









「あーあもう駄目だ二階堂は」
「どうしたの?さっきの授業の時から独り言多いよ?」
「え、もしかして声に出てましたか?」
「もしかしてもなにも、思いっきり出てました」


そう怪訝な顔を向ける千ちゃんは私が二階堂に恋しているのを知っている唯一の存在だったり
だがしかし千ちゃんは良き相談相手であって、恋のキューピットではない。
あくまで自分の恋愛は自分で!なんて硬派な台詞を前以って言われたのは強烈だった。


「いやほらさ、二階堂。漫画にはまってるとか言って実は隣の子狙いじゃないのかしらと思いまして。」
「あー それでずっとブツブツ?」
「ごめんって、ほらだって恋する乙女は周りが見えなくなるもんじゃん」
「なんかそのキャラちょっと鬱陶しい…」


えー酷い!って千ちゃんの肩に軽いグーパンチをかましたところで二階堂がお弁当と例の漫画を持って登場した。
昼食がそんなに嬉しいのかその表情は満面と言って良い程の笑みで不覚にもまたドキドキしてしまう。
悔しいから二階堂の顔を見ないようにそれに気付かないフリをして千ちゃんの名前を呼べば それを遮るように飯食べよー!なんて暢気な二階堂の声。






「あ、ちゃんのそれいーな。ちょっと頂戴?」
「これ?うん、いいよ。どうぞ」
「俺ものこれ欲しい、ちょーだい!」
「えーどうしよっかなー」
「なんで!?」



そう口を尖らせる二階堂の方にウソウソなんて言ってお弁当箱を寄せれば、ぱっと笑顔になる。
なんて単純な奴、そう思いながらもそんな顔をされるのは非常に嬉しくて仕方がなくて
早起きして頑張った自分のお弁当を見詰めてちょっと誇らしい気持ちになる。
それなのに、差し出された二階堂はといえば食べる!なんて笑顔を向けた割りに箸を伸ばそうとしない







「…え?あれ?食べるんじゃなかったの?」

「え?が食べさせてくれるんじゃないの?」

「な、なにを言ってんだおまえは!」


その台詞にドギマギする私を他所に、二階堂はあーんなんて語尾にハートでも付きそうな声で口を開ける。
チラリと一瞬千ちゃんを見れば、僕何も見てません。な顔で黙々と食事を続けていた。(い、意地悪!)

そのままポカンと口を開けさせているのもなんだか滑稽で可哀想なので、勇気を出して箸でおかずを掴む。
指先が震えて情けないとか思いながら必死にその口の中におかずを運べばあだ名の通りににかっと笑う二階堂。



「あーこれこれ!やっぱ少女漫画ってのは男子の理想も判ってるよな〜」
「二階堂漫画の読みすぎだよ。そんなベタな人、今時いないって」
「そっ、そうだよ。それに第一そういうのは彼女にして貰うもんでしょ!」




その自分の台詞に墓穴を掘った、なんてはっとしてしまった。
その勢いで二階堂のお隣さんの横顔を見れば可愛らしい笑顔。


そうだよなーなんて悪びれもなく笑われたら私立ち直れない… 
そんな私の気持ちも知らずに、二階堂はやっぱり笑顔でそう言い放った




「あー。まあ確かにな彼女じゃねーもんな」

「そうだよ、私別に二階堂の彼女じゃない」




あはは、なんて自分で言って首を絞めている。喉元がキュウキュウ詰まって息が途切れそうなのが判った。
無言になってしまいそうな自分を奮い立たせてなんとか口を開ければ、また二階堂が先に声を上げる。




「じゃあ俺と付き合ったらいいじゃん!今日から俺の彼女になってよ。ていうか好きだから付き合って下さい!」

「…軽いノリでなんてことを言い出すんですか二階堂さんあなたって人は」

「だから二階堂漫画の読みすぎだって。」




ちなみに僕、間に挟まれてとっても窮屈です、なんてまた黙々とお弁当に箸を伸ばす千ちゃんに 目が点になればその後に二階堂が笑顔で私を覗き込んできた。

「ねえ、俺のこと きらい?」




(2007.04.06 Alice)