時計の針はいまにも12を越えてしまいそうになっているのに(コールは相も変わらず話し中)















一番に祝ってあげようって、決めてたのに私の目標はもろくも崩れ落ちそうになっていた。
なんていったって、メールしたって返事も返ってこない、電話したって話し中。
腹いせに北山くんに電話したら、そんな事でかけてくんなって怒って切られるし。
去年はあっさり連絡繋がったのに、何事だ、これは


「・・・もう考えるのやーめた!」


相変わらず無機質な機械音だけしか聞かせてくれない携帯を放り出してベットに飛び込む。
太輔の喜ぶ声がききたい、なんて柄にもなく女の子な気持ちになってすっごく損した。
梅雨特有のジメっとした湿度の増す部屋の中で、私の気持ちまで湿気にやられて腐ってしまいそう。
これもそれも太輔が悪いんだ、この、彼女不幸もの。相変わらず変な前髪の癖して!
私の携帯の待ち受けを自分の写真(しかも何故か上半身裸の)にさせておいて、なんなのこの仕打ち
なんて、出来る限り精一杯罵ってみたけどやっぱり好きだから、惨めになるのは結局私だけ。

最近前にもまして忙しくなった太輔、ましてや大学にも合格してからは殆ど会う暇なんてなくて、
ほかに彼女が出来たとか、私にはもう愛想が尽きてるなんて嫌な噂も沢山聞くから不安でたまらない。
昔より格好良くなったよね!なんて、同級生の友達からチラリと言われる言葉だって不安の種でしかなくて、
そういうことをどうして真っ直ぐ喜んであげられないんだろうって思うと、彼女失格なのかなあなんてボンヤリ考えた。
私と太輔がつりあってない事なんて付き合う前からずっと判っていた今更の事実だけど。


諦められない気持ちでもう一度コールを鳴らすけど、やっぱり繋がるのは機械の音だけ。

顔を上げれば時計はもう6月25日を告げていて、
じっくり考えたお祝いメールを送る瞬間を逃してしまったことに気がついた
(イチバンだった?なんて本文のままじゃ、送れっこない)


情けなさに思わず泣いてしまいそうになる気持ちのまま、部屋の電気を落とすと、ピカピカ光りだす携帯。
ディスプレイにうつされたのは、非通知設定の文字
こんな時間に非通知からなんて・・・、と不審に思いつつも通話のボタンを押すと
無言の向こう側からは、何時の間に振り出したのか雨の音が聞こえている。


「(イタズラ?)・・どちら様ですか?」
「俺だけど!」
「……(オレオレ詐欺?!)」


あの、私オレなんて知り合いいません。と一言だけ告げて容赦なく電話を切る。
そしたらすぐにまた、同じように非通知設定から着信が入る。
(しつこい…)そう思ってまた容赦なく着信を切ると、またすぐに着信。


「あの、しつこいようですけど、わた」
「だから俺だってば!藤ヶ谷太輔!の彼氏の!」
「…………。」


一瞬幻聴かと自分の耳を疑ったけれど、耳元で騒がしく俺だってば!って繰り返す声は太輔で、
呆れるよりも、怒るよりも先に、やっぱり嬉しさが沸き立ってきた(私ってなんて献身的)


「…何やってるんですか」
「あー、ま、それは後から説明するからとりあえず会おう!」
「(なんて自分勝手な)一応今夜中ですけど …本気?」
「もちろん!」


夜中とは思えないテンションに圧倒されつつも、嬉しい気持ちを隠せずに頬が緩む。
だけど、そんな気持ちを悟られたくなくてあえて低テンションで接してしまう私
そんな私の気持ちを知ってかしらずか、太輔は嬉しそうに声をあげた。


「今、ん家の前にいるから大丈夫!」


その言葉に動揺してベットの下に伸ばした脚を滑らせて尻餅を着いてしまった。
(家族がビックリして飛び起きでもしたら、どう言い訳しろっていうの)
極力足音を立てないように、それでも急いで玄関のドアを開けると、
そこには、透明の安っぽい傘をクルクル回しながら、嬉しそうな顔をした太輔が立っていた。



「何、やってるんですか・・・」



今日2回目になるその言葉を呟いても、やっぱり太輔はいつもみたいに笑顔で。


「だってホラ、が一番に祝ってくれるって言うから!」


そういって、パジャマのままのダッサイ私の腕を引いて傘の中に引き寄せる。
肩に落ちた水滴が私を濡らしたけど、そんなこと気にしてなんかいられなくて、
前に抱きしめられた時よりも、少しだけ太輔が逞しくなった気がして、思わずドキリと胸がなった。


「電話したのに、出てくれなかった」
「だってそんなのじゃ物足りない」


そう言った後、キスしていい?なんて聞いておきながら返事も待たずに小さく口付けられた。
その唇に言葉を引き出されるみたいにして、私も小さく言葉を繋げた。




(2006.06.25 Alice)