まだまだ終わりそうの無い課題を見詰めて本日3度目のため息。
申し訳ない気持ちで後ろを振り返れば、 私のベットに腰掛け、相変わらずなんともつかない表情で雑誌に目を通す裕太の姿。
どうしてよりにもよってこんな時にこんなに課題が溜まっているのか。
サボリ癖が付いて日頃からきちんと消化していかない自分を、只管に責めた








「裕太、ごめんね。あの、まだもう少しかかりそう…」


けしてもう少し、では無いのだけれど少しでも進行しているようなふりをした。
そうでもしておかなきゃ、痺れを切らした裕太が何時帰ってしまうか判らない気がしたから。
それだけはどうしても避けたい私、だけど提出日を翌日に控えた課題を放り出すわけにもいかず
こうやって後からやれる範囲までに終わらせようと必死になっている。
そんな私に裕太はただうん、とかああとか返すだけで不機嫌なのかそうでないのか、
あまりにも態度が普段どおり過ぎて予想出来ない。


「いいよ別に、急がなくても。俺待ってるから」


ようやくああとかうん以外にそう言葉を発した裕太は、相変わらず雑誌から目を離そうとはしない。
それにもう一度謝罪の言葉を返してから、もう一度課題に向き合う。
眩暈がしそうな文字の羅列に負けそうになるけれど、久しぶりの裕太との時間を過ごす為だと自分を励ました。






それからどれくらい経っただろうか。
裕太が読んでいた雑誌はいつのまにか漫画に変わっていて、私の手元の課題は残り5ページまでに消化されていた。
この程度なら夜寝る前にでもやれば十分間に合うだろう、そう思って散らかった机の上を片付ける。
ああやっと彼の顔を後ろめたい思いをしながら見なくてもすむ。


「終わった?」


そんな私の行動を見て、裕太が声を上げる。
それにうん、もう平気。そう返事をして、ノートやら筆箱やらを机の隅に纏め振り返った。
裕太も私と同じように遠慮がちにテーブルに置かれた漫画や雑誌、それからスポーツドリンクなんかを 鞄に直して顔を上げる。


「ええっと…お待たせしました、です」
「いいって。連絡も無しに来た俺が悪いし。」


終わったんならもういい?と自分の隣に座るように促す裕太に素直に従って、私もベットに腰をおろす。
こんな距離感随分久しぶりな気がする、そう思ったらなんだか妙に気恥ずかしくて緊張してしまう。
まるでそれを見透かしているかのように、裕太は余裕のある表情で緊張してる?なんて呟くから、
私の羞恥心は最高潮に達して、思わず返答に困ってしまった。


「いや、その…なんですか、久しぶりに裕太とこんな風に会うなあって…思ってですね」
「ああ、それで。俺だってと会う時は緊張するよ?」
「う、うっそだー。裕太年下なのに、私のほうが絶対余裕ない…」


年下、そう口にした瞬間にむっとした顔をする裕太。
あ、しまった。そう思ってももう遅くて、その言葉を嫌う裕太が少し意地悪な顔をする。
そういところが私よりもなんだか大人に感じて、実際年下なんて気にしてはいないんだけど…


「また年下って言った。」
「あ、いやその…。でも裕太は北山とかその辺りより全然大人だと思います、はい」


しどろもどろにそう言い訳をすると、裕太はますますむっとした顔をする。
どうしたのと聞き返せば、そういうの俺といる時はナシ。なんて拗ねた顔


「え?」
「先輩の話したり、俺の知らない話題出すの、禁止」
「…うん」
「俺といる時は、先輩じゃなくてただのでいて。」


そう言って裕太は徐に私を引き寄せて抱きしめる。
何度されてもそういう行為になれない私は即座に抵抗してしまいそうになるけれど、
なんだかそれも出来ないくらいに私の頭は裕太のそんな嫉妬ともとれる言葉でいっぱいだった。

告白したのも私だし、そういう言葉を滅多に口にしない裕太から、まさかそんな台詞が飛び出すとは思ってもおらず。
嬉しいやら恥ずかしいやらでもう思考回路が上手く働かなくなってしまっている
その所為もあって、裕太って嫉妬するんだ…そう正直に呟いた私に今度は裕太が驚いた声。


「何言ってんの?」
「だって裕太そういうのあんまりないのかなあって思ってたから…」
「嫉妬なんて俺、常にしてるけど」


が友達と手を繋いで歩いているの見ても嫉妬するし、 が学校で俺の知らない先輩と話してると嫉妬するし、
が俺の知らない話題を出せば嫉妬するし、 が課題ばっかりで構ってくれなかったら嫉妬する。
けど、格好悪いと思われたくないしなにより俺年下だからちょっとでも大人に振舞ってるだけ。
そう早口で言ってのける裕太の頬はうっすらピンク色。
ああ、なんだ…勝手に思い込んでいたのは私の方だったのか。


「・・・あーも最悪、なに言わせんだよ」
「え、私は嬉しい…けどなあ」


そう言って笑えば、相変わらずのピンクの頬で私をキッと睨みつける裕太。
今日は珍しく色んな表情を見せてくれる、そんな事に私の心臓は高鳴って、怒らせると判っていても笑顔が止まる訳もない。


「俺のそういう余裕っぽいとこ、嫌い」
「そんな余裕とかじゃないよ、ただ裕太可愛いなあって」
「…俺の事バカにしてる?」
「し、してないです、そんな、滅相もない!」


そういう態度とるなら俺もう、知らない。
にやり、と擬音でもつきそうに裕太は笑って抱き寄せた私の体を勢いよくベットに押し倒した。
ちょ、ちょっと!なんて抵抗を試みる私の精一杯の両手を少し乱暴に力を加えて纏め上げ、頭上で固定される。




「俺、のその余裕の表情崩すの 好きなんだよね。」



そう言う裕太に今後一切禁句ワードを使わないようにしようと、心に誓った。











(2007.03.15 Alice)