真夜中のベランダでケータイの光に照らされての横顔がボンヤリ浮かんでいた。
寝ぼけ眼のまま身動きもせずにその横顔をじっと見つめてあいつの顔を思い浮かべる。
なにかを拭うように目元をこする右腕の細さに後ろめたさを感じているのに、
やけにその姿が自分の中の欲を昂ぶらせている矛盾。
もう後悔したって遅いのに何処かで罪を感じる自分がいる。
でも、そんなの横顔に声をかけてやるほど俺だって大人じゃない。

俺の事なんて目の端にも入ってないなんて、そんな事判っていた。
俺を見上げるその瞳には何時だってあいつの影が見え隠れしていて、
その度に苛立って、だけど愛しくてどうしようもなくて、

恋だとか愛だとか、きっともうそんな綺麗なものじゃ括れない
だけど俺にとっては唯一の女だった、唯一愛したいと思った人だった。

音も立てずベランダの窓を閉めて立ち上がったに気付かれない様に目を閉じて寝たふり。
遠慮がちにシーツに足を滑らせたの腰を捕まえて抱きしめた。
驚いた悲鳴を上げてから、困ったように俺の名前を呼ぶが好きで好きで仕方ない


「どう、したの?・・北山」
「・・・べつに」


俺の髪を絡め取る指先は夜風に冷やされて冷たくて無性に悔しくなった。
の指先の体温一つだって、俺のものに染まってはくれない。
何時だってを占めているのはあいつだけで、 きっと敵わない。


「めずらしいね、北山が甘えるなんて」
「バカ、寒ぃだけだよ」
「ふーん」


優しいその吐息もけして"宏光"とは呼ばないその声も、俺のものだったらいいのに。
好きでもない癖に、優しくするそれらが憎らしくて乱暴に握り締めたくなる。
ああ、愛情と憎悪と嫉妬で頭おかしくなりそう、俺

絡まる指先が少しだけ強張ってが身震いをする。
(夜風の所為なのか、それとも)


「ほんと。今夜は寒い、ね」




(2007.01.29 Alice)